Tは自分の会社の労働者たちに向かって、「君たちは考えなくてもよい。
考えることで給料をもらっている人間は他にいるのだから」と、繰り返し語っていたそうよ。
この経営哲学は大きな成功をおさめ、またたくまにあらゆる工場が労働者を監視するようになり、むだな動きを取り除くような制度をつくっていった。
F社が確立した流れ作業による自動車の大量生産システムも、T主義に触発されて生まれたものだ。
しかしながら、T式経営法も長くは続かなかった。
冷徹な生産性第一主義に対する不満がすぐに爆発し、Cのブラックユーモアあふれる映画『M』のような芸術作品も生みだした。
しかし、経営者たちがそうした時代の空気に敏感に反応したのは、モラルに目覚めたからというわけではない。
彼らは、労働者を感情のない機械のように扱っていては、ビジネスが成り立たないということに気づいたのである。
厳格なT主義が効果を発揮するのは、農場で働く奴隷や、工場にずらっと並んだ労働者を使用し、彼らが何を考えていようと気にしない場合である。
しかしながら、労働者の筋肉よりも頭脳のほうが重要であるときは、この方法では失敗する。
20世紀の前半は労働者のほとんどがブルーカラーだったが、後半になるとホワイトカラーが大半を占めるようになった。
ブルーからホワイトへの変化とともに、やがて姿を消したのである。
T主義を最初に捨て去ったのは日本の経営者だ。
彼らは、ただ上からの命令に従わせるのではなく、下からの提案を積極的に採用する道を選んだ。
第二次世界大戦で壊滅した経済を立て直すにあたり、日本人は本国アメリカではまるで相手にされなかったW・E・Dの経営理論を発見したのである。
「全社的品質管理」と呼ばれることもあるこの理論は、労働者も自分の賃金だけでなく製品の質に気を配るべきだと主張する。
そして、彼らの生産プロセスに対する提案が生産性向上に大きな影響力を持つというのである。
したがって経営者は、労働者の自主性と責任を尊重しなければならない。
この「労働者に力を与えよ」という経営スローガンは、1980年代に逆にアメリカにも紹介され、そして次の世紀へと受け継がれた。
では、このような高潔な考え方は、いったい何を生みだしたのだろうか?品質管理的経営は、栄養をたっぷり与えられた細菌のようにまたたくまに繁殖し、さまざまな研修プログラムや週ごとのスローガンが際限なく生まれるようになった。
X理論が採用されたと思ったらY理論が採用され、その次にまた新たなZ理論が採用される。
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